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.hack//virus[寄生汚染] vol.2

Demystification


6時間目が終わり、文也は帰る準備をしていた。
文也の高校では6時間授業の日が多い
いつもポケットに入れている携帯がブルブルと震える。
メールのようだが、今開いたら取り上げられる
他の学年やクラスは授業中以外では取り上げないが、文也のクラスの先生は厳しく、すぐ取り上げてしまう
その為、休み時間は携帯を持ってトイレへ行く生徒が半端じゃない
すばやく帰る準備をし、教室から飛び出し下駄箱へ走った。
携帯を開きメールを見る
春山先輩のようだ

学校近くの喫茶店に来て

文也は言われるがままに喫茶店へ向かい、紙を二枚ほど広げて待っているはるやま先輩の元へ向かった
机の上には赤青黒の3色ボールペン、プリントしたメール、レポート用紙が置かれていた。
「フミ君、もしかしたら解ったかもしれない」
この呼び名は止めて欲しい
でも、止めてくれと言うのも失礼だ
今はこの事を聞くしかない
「本当ですか!?」
「うん」
先輩はレポート用紙に色々と書き出した。
「この、羽はってやつは」
先輩が『羽はζ険をしら¥てくれるo』と紙に書きζと¥に消去線を加え、下に「危」と「せ」を書いた。
「オーは多分丸だね」
同じように『まだ未√成』の√を完
と直していき、やっと完成した。

届いてるよね

羽は危険をしらせてくれる。
まだ未完成
危険を察すには、まだ力が足らない
わたしは壊われたかもしれない。

「何か変なメールだね」
「はい…」
羽が危険を察するなら何故マク・アヌで消えないんだろう
未完成だからだろうか?
「じゃあ、家帰って勉強するから帰るね」
「ありがとうございました」
――きっとイレギュラーなデータだからマク・アヌでエラーが起こってるんだろう。
甘すぎる思考でPCを点けた。
長い夜の電源と共に…


summons


メールの受信音
ヘルバのようだ
内容はただ『Δ君臨す 孤独の 三つ首龍』とエリアワードだけ書かれている。
呼んでいるのだろう。
一人で行くと後でタクミに怒られる。仕方なくタクミを呼びログインした。
カオスがログインするのを計っていつもの様にクリスが待っている。
ストーカーかと疑えるほどだ
「ねぇねぇ~どこ行くの?あたしも連れてってくれるよね?連れてかないとは言わせないよ!何が何でも行くからね!」
少しは春山先輩のようになって欲しい…
「……わかったよ」
「このメンバーは慣れてるから良いじゃないか」
「うわ!」
カメラの死角を綺麗について、おばけのようにイタチが現れた。
文也はリアルに驚いてしまった。
「ヘルバに呼び出されてんだろ?さっさと行こうぜ!」
「それもそうだね」
エリアレベルは12
カオス達のレベルで丁度良いぐらいだ
転送リングが僕達を包み
エリアへ送った。

エリアに着くと酷い有様だ
背景は割れたガラスのようにひび割れ、フィールドは焼け跡だらけだ
画面には不規則にノイズが走り、文字列が宙を舞う
とてつもなく壊れているエリアだ
こんな所に何故ヘルバは呼び出したのだろう…
フィールドはエリアと直通するタイプで、ある程度敵を倒さなければいけないがエリアレベルの割に出る敵がそこまで強くなく、すんなりと通った
エリアに着いてもそれほど敵の強さは変わらない。
ただ、不思議な事にたまに敵が動かなくなる。
何かに縛られているように…
おびき寄せるかのように一直線のエリア
この先に何があるのだろうか
また、ヘルバの前にあの男が出てきたらどうすれば良いのか…
【フィールド魔方陣 ALL OPEN】
ついに部屋は後一つ
赤い炎が揺らめいている。
危険信号の赤い炎
行くしかない!
一海を助けるために!
カオスが先頭に立ち走り出す。

真っ赤に広がる溶岩
火山の中にいるような気がしてくる。
煙の代わりにノイズが起こり中央に赤い宝石、それを囲みながら回る白、青、茶色、緑の宝石が現れた。
宝石はノイズに取り込まれ、中央の赤い宝石だけが燃え出した。
炎が収まると赤いローブの死神が現れた。
手に持つ大きな鎌は炎に包まれている。
また、戦わなければいけない
一海を助けるために…

A heart scorching an element of fire


突っ込むしかない。
勝てる勝てないの問題ではなかった。
やらなければ死ぬし、やっても勝てるかどうかわからない。
黙って殺されるよりもあがいた方がまだましだ。
ただ…
あの鎌にやられると一溜りも無い気がする。
羽は今までに無いほど伸び、体の倍近くに大きくなっていた。
危険すぎるという事か…
仕方ない。
余計な事を考えている暇は無い。
今はただ、この死神を倒すしかない。
「ハァァァッ!」
何あれ?とはしゃいでいるクリスと固まっているイタチを差し置きカオスが先陣を切る。
名前は『イフリート』らしい。
名前は文字化けしないが、HPは文字化けをしていて&%%#/≠±%$と何が書いてあるのかさっぱりだ。
ダメージも聞いている様子が無く死神は鎌を構えた。
瞬時に気が付いたカオス(文也)はコントローラのアナログを一回転させ防いだ。
限界ギリギリの戦いだ。
イフリートは魔法も使ってきて、ダメージは相当食らったが、後ろで固まっていたイタチが動き出し(回復程度)癒しの水を使ってくれた。
怖がってたら仕様が無いと言っていた本人が固まるなんて…
クリスは後ろから魔法で援護してくれる。
陣形はベストだ。
イタチが戦ってくれればもっと良いが…
「!?」
突然コントローラを動かしても反応しなくなった。
相手のスキルらしい。
【心から焦がされる。灼炎の火】
ログにそう出ると、鎌の火がすごい大きさになった。
釜の先には腕輪から出される光の矢が幾つも付いている。

――消される!

動けない!
鎌をかわせない!
無抵抗のカオスに無残にも(光の矢付きの)鎌が突き刺さった。


Parasitism

ビキビキ!と音がする。何かが元の物体より無理矢理大きくした時のような音。
FDMがこめかみを急に強く締め、僕はFDMを外し、仰天した。
文也の部屋がフィールドになっている。
文也がカオスになっている。
まわりに、イタチ、クリス、イフリートが居る。
FDMは文也に寄生する寸前だったらしく、根っこのような物が気味が悪い動きをしている。
文也はカオスになったと言う事は当然、文也の腹部には鎌が突き刺さっている。
多分、あくまで推測だが、一海はカイとなり、そして矢の力で意識不明になったのではないか?
だから、今の文也の部屋のようにフィールドと部屋がリンクしてしまっていたのではないだろうか…
でも文也は現にこうして意識がある。
何故だ?
文也は投げ飛ばされ受身も取れるはずが無く(文也とリンクしているとは言えども緒戦はゲームだから)大ダメージを受けてしまった。
さらに、『毒』『呪い』(SPがどんどん減って行く)『麻痺』『睡眠』『混乱』(敵味方構わず攻撃する)『魅了』(味方を攻撃する)とステータス異常も完全装備だ。「カオス~!大丈夫~?」
クリスの声が部屋中に響く。
声からは『心配』と言う言葉より『楽しみながら心配』と言う言葉に聞こえる。
クリスにとっては、ただのゲームだ。仕様が無い
普通に心配してくれてるのだろうが…
クリスとイタチが、回復魔法やアイテムを使ってくれて何とか助かった。
一人だとしたら、いや二人でも、この戦いは勝率は0%だっただろう。
3人でやっと50%だ。
HPが文字化けしていると言う事は、つまりあのローブの男と同じような感じだろうか。
ひたすら叩けば【PROTECT BREAK OK】の文字が出るはずだ。

【PROTECT BREAK OK】

出た!
大きく伸びた羽を折り曲げ、腕輪と合体する。
腕輪は大きくなり矢を6本ほど発射した。
見事に命中した。
イフリートは光り出し、八方向にある石がロープによって正八角形の形になり、その中心に正八角形にカットされたルビーらしき宝石がその石のロープで支えられている。
「こいつを倒せば良いのか」
誰にも説明されずに僕はそう解釈して走り出した。
HPの文字化けが取れた。
あまりHPは無いようだが普通の敵より圧倒的に多い。
ひたすら切り、イタチも攻撃スキルで参戦し、クリスもSPを大量消費する強力な魔法を使った。
半分倒したような状態でも油断ならない。
意外と強い。
元のイフリートより弱いが…
「よっしゃ!最後のイッパーツ!」
クリスは栄養ドリンクのコマーシャルに使われているような決め台詞を吐き、装備を変えた。
「オラガンゾット!」
本当に最後の一発となり、イフリートは動かなくなった。
「やった~決めちゃった~」
「倒した…」
文也の部屋が元へ戻って行く。
FDMも綺麗になった。
文也はゆっくりとFDMを付け直した。
「誰だろうあの子、PCじゃないよね」
クリスが指を刺す先。
あの少女だ。
腕輪をくれた。
空から降りてきた少女に僕は一声かける。
「君のくれた腕輪のおかげで助かったよ」
「わ…たし、ア…ウラ」
自己紹介をしているらしい。
途切れ途切れの声は何処か必死さを感じる。
「僕は…」
カオスも自己紹介をしようとした瞬間だった。
イフリートの中心の宝石だけが動き出しアウラの背中に向かって飛んだ。
宝石はアウラを貫通し、アウラのデータを壊し、
3つに分けてしまった。
「キャァァァァ」と生々しく痛々しい悲鳴を上げ、3つに分かれた発光体が何処かへ飛んでいってしまった。
宝石は僕の中へ入り、僕の重要アイテムの中へ入った。

「気持ち悪いな…」
イタチが戦う前以来、始めて口を開いた。
「うん…」
カオスは頷く。
「あの子…助けられないかな」
クリスが言う。
「あのフラグメントを集めれば良いんじゃない?」
3人以外のガイアの誰かが言った。
――誰だ?
三人揃って振り向いた。
ヘルバだ。
「集めるってどうやってですか?」
「私に任せなさい」
ヘルバは胸を張って言うと、転送リングによって消えてしまった。


The worst situation


アウラの事で苦しい沈黙が続いている。
カオスは無理矢理その沈黙を破ろうとした。
「僕達も戻ろうか」
「うん」


アウラ…
僕はこの腕輪の事を何も知らない…
君に教えて欲しかった…
僕は君の事を何も知らない…
君は只者じゃない事しか…


転送リングが僕を作り出す。
だが、マク・アヌには誰も居ない…
まるでこの町が遺跡になったように…
「なんだよこれ…」
「人が…居ないよ…」
イタチとクリスが会話している中、僕は気が付いた。
――二人だけ居る…このマク・アヌに…
とにかく危険な気がする。
クリスとイタチを帰そう。
「落ちようよ」
「……そうだね」
「わかった…」
二人は落ちてくれた。
カオスはマク・アヌの水路を辿って行き止まりになっている所へ行った。
居るのは一人の女重戦士と…

ローブの男

「!?」
驚いてカオスは後ずさりしてしまった。
「見つけたわ!カイト!正気を戻して!」
カイト!?
あのローブの男がカイトだと言うのか!?
『THE WORLD』を救った英雄だと言うのか!?
「ブラ……ッ…ク……ローズ…」
途切れ途切れの声。
アウラのように…
「た…す…け…て…」
そう言うとカイトは腕輪を光らせる。
「ぼ…く…の…な…か…の…な…に…か…が…ぼ…く…を…う…ご…か…し…て…い…る…」
そんな馬鹿な!?
『僕の中の何かが僕を動かしている』だって!?
カイトに何かが寄生したとでも言うのか?
カイトは腕輪を大きくさせ、もう打つ寸前だ。
「カイト!カイト!カイトォォォォォ!!!!お願い!何かが動かしてるって言うならいつもみたいにさらっと追い返してよ!」
「ご…め…ん」
「ゴメンじゃない!追い返して!いつもの馬鹿みたいなアンタに戻ってよ…」
「な…か…な…い…で…よ…」
「泣いてない!泣いてないわよ!」
「(笑)」
「(笑)…じゃ…ないわよぉ…」
ブラックローズは動かなくなった。
動かない格好の餌にカイト(の中の何か)が矢を放った…


Sad thought


ブラックローズに光の矢が迫る。

リアルのブラックローズが流した涙が床へ迫ると同時に…


――カイト…


ブラックローズはカイトがこうなってしまった理由を走馬灯の様に想い始めた。
それは、いつもと変わらない…
カズとカイトそしてブラックローズの3人でたまに出るウイルスバグを倒していた日だ。
高校3年生のブラックローズ、唯一の楽しみはカイトとのゲーム。
はっきりと言えばカイトと合う事。
八双のような敵が出て来る事が無ければ、カイト、ブラックローズのレベルが最大値だからとてもやられない。
管理者リョースとも契約してある為、いざとなったら転送してくれるだろう。
そんな期待を煮え滾らせていた。
甘い考えを…
「さぁ来るわよ」
「うん。そうだね」
ブラックローズ達は紫色の炎が立ち込める、いつものウイルスバグの部屋の目の前に来た。
補助をかけ、どんな奴だろうと楽勝だろうと言うような状況にした。
サーバはΩ。
一応、油断はしない。
楽勝とは言え、相手はウイルスバグだ。
装備を完璧にすると3人は一気に飛び込んだ。
激しいノイズ。
ノイズが起こり中央に赤い宝石、それを囲みながら回る白、青、緑の宝石が現れた。
宝石はノイズに取り込まれ、中央の赤い宝石だけが燃え出す。
明らかに死神と言わんばかりの敵が鎌を構える。
釜の先には光の矢。
「逃げろ!」
リョースの通信だ。
ブラックローズはカズを庇い間一髪逃げ切ったが、カイトは逃げ切れなかった。
「カイト!」
きっと腕輪の加護がある。
大丈夫だ。
それこそ甘かった。
死神に対する加護は腕輪だけでなく羽が必要なのだ。
カイトは無残にもデータを破壊された。
だが、唯一、腕輪の加護が働いた。
カイトのデータは元に戻った。
ローブを加えて…
そして、操作を代償に…
「助けて!助けてブラックローズ!」
ブラックローズは助けたくてもどうやって助ければいいかわからず、跪いてしまった。
「どうしたのよ。どうしちゃったのよ…カイトォォォォ!!」

カイトはカズにデータドレインを打つ為の腕輪を向けた。

そして、また、カズは意識不明となった…
今度はカズの部屋に、フィールドが寄生して…

「ブラックローズ!今転送する」
リョースが救いの転送リングを送った。
今は救いではなく空しさがぴったりだ。
「やだ!待って!カイト!カイトを助けるの!リョースやめて!消して!イヤァァァァァ!!!」



それからずっと、カイトを追い続けてきたのだ。
やっと見つけた。
嬉しかった。
助けたい。
助けなきゃ。
ブラックローズの中には私しか助けられないと思っている。
カイトは何も変わらない。
変わってないんだ。
変わったのは…
カイトのPC。
カイトのPCを何とかしなきゃ…
救うんだ。
カイトを。
怖いよ…カイト…
でも、ずっと一緒に居たいよ…カイト…
戻ってきて…カイト…
色々八つ当たりをしたりした事。
強がって偉そうにしてた事。
今までありがとうと言いたい。
これからもよろしくと言いたい。
伝えたい。
今の気持ちを。
そして、抱きしめたい。
怖かったよね、と。
もう大丈夫だよ、と。
思うとまた、涙がこぼれて来る。
気が付けば声に出して泣いていた。


リアルのブラックローズは涙に濡れるコントローラを拾い上げ、間一髪で矢を避けた。


Black Rose


当たると意識不明になってしまう光の矢。
それをブラックローズは間一髪で避けたが、だからと言って勝ち目は無い。
腕輪の加護がまだ続いているとも限らないし、続いていたとしてもられれば終りだ。

――私は無力だね…何にも出来ない。力が欲しいよ…強い力が…

ブラックローズの想いに神が微笑んだのか、後ろにいる人(PC)影に気が付いた。
黒崎文也ことカオス。

――巻き込みたくないけど…サーバーダウン中に落ちてない方が悪いんだから!

「ちょっと!アンタ!アイツを何とかするから手伝いなさい!」
この状況に驚き続けていた。突然の強引な申し立てに、頼まれたら断れない文也は反論など出来なかった。
「わかりました」
アクションコマンドで頷く。
すると、ブラックローズが不機嫌そうな声で
「カタイ!」
と言ってきた。
「そ、そうですか?」
「敬語禁止」
「は、はい」
「今、私。何て言ったか覚えてる?」
「わ、わかった」
正直な事を言えば怖かった。
ゆっくりと力強い声は脅迫と何ら変わりない様に聞こえる。
【パーティ編成希望 カオス←ブラックローズ】
初めて編成希望のログを見たから、文也は見入っていた。
一行の文章に。
「アンタ、いつになったら編成できんの!?こんなことしてる間にやられたらどうするのよ」
「す、すみません」
「敬語禁止」
「ごめん…」
【OK】と書いてある場所が点滅するようにコントローラのスティックを動かす。
そして、ボタンを叩いた。
「アイツを倒しちゃダメよ!あくまで戦闘不能…ってアンタ腕輪所持者!?しかも羽生えてるし!」
ローブの男は巨大な双剣をいつの間にかに構え、そして振っていた。
それを避けながら解説をする。
「これ?アウラって女の子にもらったんだ」
双剣がブラックローズを切り裂こうとする。
ブラックローズは瞬時に大きな剣を盾にした。
「アウラ!ちょっとアンタ!後で色々と話聞かせてもらうから!」
もう片方の双剣が僕の元へ。
僕は二つの双剣を罰印に構え抑えた。
「わかった」
カオスとブラックローズは呼吸を合わせ、カイトの双剣を押し出す。
その瞬間。カオスとブラックローズは同時にカイトへ剣を振る。
「食らえぇぇぇぇ!」「戻れぇぇぇぇ!」
「うわぁぁぁぁ!」
カイトの苦しむ声
カオスは二打目を打とうとする。
だが、

ブラックローズは止まってしまった。

――カイト…


Sorrow to lose


カオスに向かって撃った瞬間、ブラックローズにも撃たれる。
「ブラックローズゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
カイトの放った矢。
カオス、ブラックローズに撃たれた矢。
普通の矢よりも大きく、そして速い。
しかし、それは、カオスにはとてもゆっくりに見えた。
――死ぬ瞬間とか、何かにぶつかる瞬間とかスローモーションになるって言うけど本当だったんだ。
とカオスは諦めてしまった。
ブラックローズは泣き声がマイクに取られる位に泣いていた。
大泣きしている訳ではなく、啜り泣きのようだ。

「俺達守るみたいにいい格好して意識不明とかになるんじゃねぇよ!カオス!」
「おねぇちゃんが僕を守ってくれたなら。僕はおねぇちゃんを守らなきゃ」
突然イタチはカオスの前に。
カズはブラックローズの前に。
盾となって現れた。

「イタチ!何で!何でお前がここに居るんだ!」
カオスが盾となってるイタチの前に出ようとする。
しかし、イタチは走って矢に突っ込んだ。
「お前が居なくなったら。アウラはどうするんだ」
カオスは怒った声でイタチに怒鳴る。
「お前が…お前が居なくなってもダメだよ!」

「カズ!アンタまた意識不明に…おねぇちゃんをこれ以上悲しくさせないでよ…」
カズは二ッと微笑む。
「おねぇちゃんは意識不明になっちゃダメ。そしたら僕はおねぇちゃんを許さない」
涙を堪えていても涙は溢れて来る。泣きながらの声でカズを止めようとするが
「許さないわよ…おねぇちゃんは…」
止めるような言葉にはならない。

そして二人は。データドレインされてしまった。
さらに、カズが盾になっていたが、一本だけ矢がカズを外れ、ブラックローズへと向かった。


Determination to fight


消えて行くイタチ、カズ。
「イタチィィィィ!!!」
「カズゥゥゥゥ!!!」
叫ぶ事しか出来なかった。
止める力も無い。
彼らは無力なのだ…
無力が辛い。
辛い言っていたって何も変わらない。
無力だからこそ強く生きなければいけないはずなのだ。

声にならないほど。
言葉で表せないほど。

辛い。

最悪の鎖は伸びるばかりだ。
カズに当たったデータドレインの矢。
それが一本だけブラックローズに向かって行く。
「ちょ、え?」
自分に向かってくる矢に、ワンテンポ遅れで気が付いた。
もう避けきれない。
「嫌ッ!やめて!私はカズを!カズを助けるのォォォ!!!」
カオスはブラックローズを助けようとしたが、全く間に合わない。
「イヤァァァァァ!!!」
矢はブラックローズの胸元へ当たり。最高値だったレベルがどんどん落ちてゆく。
大剣を手落し、あの球体になる。
ブラックローズまで消えてしまうのだろうか。

気が付けば50レベル。
呆然と見るしかない。
40。30。20。そして僕と変わらない11レベル。
「あ、あれ?意識ある?意識あるじゃん!助かったぁ」
何事も無かったかのようにブラックローズは剣を拾う。
自分のレベルが下がったのに気が付いていないのだろうか…
「あの~ブラックローズさん」
「ブラックローズで良い」
「ブラックローズ、レベル…下がってるよ」
「わかってる…わかってるわよ!それより…カイトを助けなきゃ。カズを助けなきゃ。イタチを助けなきゃ」
――今はカズ達の為に…カイトを何とかしなくっちゃ!
どうやら背負いすぎるのが彼女の特徴らしい。
恐ろしいぐらいの命令口調と厳しい怒り声の裏には優しく『おねぇちゃん』の風格があるシッカリ者のようだ。
一人っ子の文也は少し、カズが羨ましかった。
だが、それはまれに裏目に出る。
自分を崩壊させてしまうのだ。
もう、リアルのブラックローズ『速水 晶良』は、もう涙を脱水してしまうのではないかと自分で思うほど、泣く事しか出来なかった。
――泣いたって何もならないのよ!泣いたって…泣いちゃ…ダメなんだから…
晶良は拭っても拭っても溢れて来る涙を仕様が無く放って置き、ぼやける視界の中コントローラを強く握り直し、決意した。

――戦おうカズの為にも…



カオスの破壊された透明の球体が元に戻り、見えなくなる。
PROTECTが元に戻ったようだ。
攻撃を食らわせられなければ良い。
つまり、呪符を使って倒せば良い。
いや、倒すのではない。
救うのだ。
――イタチやカズが作ってくれたチャンス。無駄に出来るものか!
「ブラックローズ!呪符とか攻撃魔法とか持ってる?」
「勿論!」
ブラックローズは戦い方を察したようだ。
さっきまでの泣きながらの声とは違い、しっかりした口調だ。
カオスは有りっ丈の呪符を使い、ブラックローズは低下したSPを気魂(きこん)と言うSPを回復させるアイテムを使ってカバーしながら魔法を使う。
「しまった!もう呪符が無い!」
僕の装備はまだ初期装備よりちょっと強い装備だけだから、魔法が使えない。
「仕様がないわね!」
そう言うとブラックローズは大量の呪符と

カイトに渡すためだったのか、それとも別の理由があるのか

『魔法の双剣』と言うベタな名前の双剣をくれた。

カオスの手持ちアイテムにも気魂(きこん)を大量に持っている。
いざとなったらの為に毎日10個ずつ買い足していた物が役に立つ。
魔法の双剣はLV.1の魔法が殆ど使えるようになる。
カオスとブラックローズは気合い入れの為に今思っている事を叫んだ。
「よし、ガンガン攻めるぞ(わよ)!」


A hood of Kite


気魂(きこん)はもう幾つ使っただろうか…
二人合わせて50個は使ったはずだ。
いつまでたっても涼しい顔(どうやらアクションコマンドまで使えなくなっているらしい)でカイトはデータドレインを打ち続ける。
カオスとブラックローズは間一髪避け、次もまた避け、やっと攻撃。と攻撃するだけで一苦労の戦いを続ける。
PROTECT BREAKされていないが何らかのダメージがある筈だ。
この戦い方でないとPROTECT BREAKされてしまう。
ふと、カオスは今打ちつづけているデータドレインと、イタチとカズがPROTECT BREAKされていないのに、データドレインされてしまった事に疑問を持った。
イタチとカズはPROTECT BREAKされていなかった筈だ。
しかし、カイトが放った高速のデータドレインで消えてしまった。
と、言う事はあの高速のデータドレインは…
「ブラックローズ!」
飛んでくる矢を避けながらブラックローズは怒った声で返事をする。
「何よ!気が散るじゃない!」
「あの矢…PROTECT BREAK中じゃ無くても…消えちゃうかも」
「何ですって!」
「あくまで推測だけど…」
「ならこんな、まどろっこしい戦い方しなくてもいいんじゃん」
そう言うとブラックローズはカイトに向かって走り出した。
カオスはそれを追いかける。
カオスの方が多少、足が速いらしく、カイトの目の前で合流した。
そして、二人は剣をしたから上へと全力で振った。(ゲームだからボタンを叩く強さが全力)
カイトはギリギリの所で避ける。
そして、カイトが深く被っていたフードが取れる。


We are pursue...


フードを取ったカイト。
カイトは当然の如く、カオスに似ている。
まるで、カオスが作られたからカイトがおかしくなったような気がしてくる。
エメラルドグリーンの髪はカオスの混沌の髪とは違う艶がある。
睨むように鋭い目は、操られている証拠だと思う。
以前、カオスにもあったような帽子は、大きくて丸い。
カイトは、巨大な双剣を振った。
二つの剣を思いっきり上から下へと振り下ろした。
ゲームの中だからこそ感じないが、きっと、自分の双剣を盾にして防いだ筈が貫き、血が噴出しているだろう。
ゲームだからこそ防げた。
その隙に、ブラックローズは大剣を横に振り、横切りをした。
見事に当たり、カイトは苦痛の声を漏らす。
――もう、動揺なんてしてられない!カイトを助けるために!
「ハァ!」
もう一度ブラックローズは大剣を確り握り締め、今度は縦切りした。
アウラより生々しい叫び。
ブラックローズより先に、剣を抑えているカオスが動揺してしまう。
「ウワァァッ!ゥウッ…グアァァ…」
ブラックローズは切り続ける。
晶良は目を瞑ってボタンをひたすら叩く。
目を開ければ現実に直視する。
カイトが苦しんでいる事に…
それは嫌だ。
カイトが苦しむ姿は、いや、自分が苦しめている姿は見たくない。
苦痛の声を上げているカイトの顔は常に涼しい。
これもまた、操られている証拠だ。
早く助けなければ。とカオスにも情が湧いてきた。
カオスは双剣を前に押し出し、カイトを怯ませ、その隙にスキルを使った。
さっきの魔法連打でもうSPは15。気魂(きこん)はもう無い。
これが、最後のスキルだ。魔法の装備を外し、いつもの装備に戻す。
「夢幻操武!」
――当たれ!そして…

【PROTECT BREAK OK】

「出たわよ!」
「うん!」

大きく広がった羽が、いつもの様に腕輪とくっ付く瞬間。

『ビキビキ!』と鈍い音を立て、空間が一箇所だけ崩れてゆく。
そこにひびが入り、それが大きな亀裂へと広がって行く。

「た・す・け・て…」
カイトは言っている言葉と反対にカオスを睨む。
鋭い眼光で…
そして、カオスは、カイトを動かしている“敵の本体”に向けての意味で睨み返した。


くっ付いていた羽と腕輪がすぐ外れた。
羽も消えた。
「終わった…いや、始まったのよね…」
そう、ブラックローズの言う通り始まったばっかりだ。
これからはカイトを追いつづけ、そしてイタチ、カズを助けなければいけない。
「僕達…どうなっちゃうんだろう」
「分からないわよ」
このまま、話が三分続かなくなった為、カオスはブラックローズに一言言って落ちた。

新着ニュースがあるが見るのは面倒だ。
下の階に降りてジュースでも飲みたかった。
カイトとの戦いの緊張で喉はカラカラだった。
下へ降りるとニュースが丁度放送されていた。

「今夜7時頃から、インターネット接続式のクッキングヒーターのインターネット昨日が何らかのウイルスにより、一部使用不可になると言う事件が発生しました。特にCC社のクッキングヒーターの被害が大きく、世界規模で発売されているCC社の被害額は20億以上と想定されています。これに対してCC社こと、サイバーコネクト社は、『復興の目処はまだ立っていない。現在ウイルスを除去中だが、クッキングヒーターの機能としてしか回復する事は出来ないだろう』と発言しています。原因はハッカーによるウイルスだとされています。」

文也は持っていたコップを驚いた衝撃で落としてしまった。



「今夜7時ごろって…僕らがイフリートを倒した時間帯じゃないか!」




―それぞれの思いと想い。―
―全てはまだばらばらだ。―

―いつか全てが解決する事を目指して…―




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